やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

誰かがもってる私の時間

たまに気絶するように倒れる。

気付いたら、目が覚める。
あら、寝てたのか、と。
 
びっくりするんだよなこれ自分でも。
今晩もそれでした。
 
無印良品の巨大ビーズクッションというか、通称人を駄目にするソファというものにもたれて本読んでたはずなんだけど、あーもうむりー、って思ったとこまでは覚えてる。
で、次気付いたらベッドのうえなんだよな。
(しかも掛け布団のうえにそのまま倒れてる)
 
んー、何度やっても慣れん。
 
 
真ん中の記憶がすっぽり抜けるって、やっぱりちょっとこわい。
 
いちばん古い失神の記憶は、小学校んとき。
具合悪くて夜の病院に連れてってもらって、レントゲンとるために立ってたら、倒れて、目が覚めた。
 
立ってて、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いって思ったとこまでは覚えてる。
で、ふぁっと戻ってきたら、父が私の名前を呼んでる。
あれ私どうなってるんだろうって。
 
 
手術したときも、時間が飛んだ。
盲腸の手術したとき、小学6年生のときだけど、
そんときの麻酔。
 
手術台に寝かされて、
真っ白い、まぶしい光を浴びながら、
眠くなりますよーって言われて酸素マスクみたいなのをあてがわれて、
ほんと、次の瞬間起きたら、
左上から覗き込むマスクした人の顔が見えて、
ああよかった目が覚めたって言われたあのとき。
 
よかった目が覚めたって言われた瞬間、
ああ、麻酔きれるのが遅くて、まわりの人たちはちょっと心配したんだなってのもわかったわけ。
 
でもさ、そのときにこうも思ったわけだ。
麻酔が多すぎて、ずっと目が覚めなかったとしても、
私わかんないよなって。
 
だって、目が覚めて、眠っていたのがわかるんだからさ。
私にとっては、その手術にかかった数時間は、なかったものなんだよね。
でもさー、現にお腹には切ったあとがあって、腹筋に力入れると痛いのだよ。
 
 
気を失ったとき、寝ていたときの時間って、どこにあるんだろう。
 
本人にはない時間ってやっぱり奇妙だ。
生まれてからすぐのときとかさ。
寝つきが悪くて、とか、人見知りした、とかさ、
そういうの。
 
本人は覚えてないんだけど、まわりにはちゃんとあるの。その時間。
自分のことなんだけど、自分のものじゃない時間。
 
いまも楽しいんだ、もうすぐ4歳になる近所の男の子見るの。
彼がねえ、どんどん変わってくのだよ。
手を振ってくれるようになったり、一人で遊べるようになったり、自分からしゃべるようになったり。
でもさー、これさー、たぶん本人は大きくなったら忘れちゃうことなんだろうなあって。
 
 
お父さんに抱っこされてないと泣き出しちゃうこととか、
夜の商店街を三輪車で爆走してたこととか、
一緒に掃除したりバケツに水汲みに行ったこととか、
きっと10年後懐かしく思うのは、本人じゃない。
まわりなんだよな。
 
自分って、自分で生きてて、
自分がいちばん知ってるってふつうに思い込んじゃうけど、
たぶんそうじゃあないんだなって思う。
 
彼とちゃんと話できるようになったら、
泣き虫時代の彼のことを覚えてる限り話して聞かせたいなーと思う。
恥ずかしがるだろうけど、本人が覚えてなくても私の記憶としてあるものは、紛れもなく彼自身だからね。
 
うめざわ
※占い師の方にね、見てもらったときに言われたことば。
「初対面だけど、たぶんあなたよりあなたのこと私知ってるね」って。あの心もとない感覚。