やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

フランスパンは鳴く

パンばっかり食べてる。

うん。

パンばっか食べてる。食パン。

うま。

焼かないでそのままむちむちのを食べるのが好き。

そのまま食べておいしいやつが好き。

あと、耳んとこがとても好き。

 

昔からそう。

家族でピザとっても、私のお皿には、みなさまの食べ残りの端っこの部分が置かれていた。具が乗ったとこは各々が食べて、私は1切れと耳4つとか。至福でしたね。耳かじるの。

ああいうむちむちの香ばしいやつが好きなのです。

 

いや、なんでこんなしょーもないこと言ってるかっていうと、すごく書きたいネタがあったんだけど、なんかどうしても、一ヶ月以上もじもじしちゃって言えなかったことがあるから、助走つけようと思ってさ。えと、パンの話。

 

私は、どんなジャンルでも職人芸のようなものをもつ人がとても好き、というか尊敬というか、非常に敬愛するのだけれども、

某パンやさんの工場で、目の前でね、大量の粉がでろでろの生地になって、その20kg単位のでろでろを寝かせたのち、華麗に切り分け、寸分違わぬ大きさに手早く丸め、バットにきれーに整列させ、(意外と工程多かったので焼きあがるところまで早送りします)、釜開けたらいー匂いのパンたち!!っていう、その光景の一部始終を目の当たりにして、うっとりしていたことがあったわけだ。職人すげえ。きらきら。きらきら。

で、そうやって焼けたベーコンエピを、工場から店におろすエレベーターに積んで、そのエレベーターのなかでですよ、焼きたてのパンを抱えてだな、そのパンやさんが顔に13%くらいのニヤリを浮かべて言ったわけです。

「フランスパンはな、鳴くのよ」

 

…これ惚れるよね?惚れるよね?

 

フランスパンは鳴く。

これだけで小説の1本や2本書けそうなフレーズだと思いませんこと!?

 

確か、フランスパンとか表面のかたいパンは、釜から出したあとも表面が割れつづけてパリパリピキピキいうことを、「鳴く」っていってた気がするんだけど(うろ覚え)、

パンが鳴くって、気恥ずかしくなるくらい美しいと思ったのよね。

 

だってさ、パンの音って普通想像し得ないじゃない。パンは味、匂い、形、見た目、だよ。あることさえも想定していない世界のことを、これだけ簡潔に表してさ、

しかも、だ。パンを擬人化というか生き物に見立てて表現するってなかなかないと思ったのよ。パンは鳴るじゃなくて、「鳴く」だったんだ。

 

いやあすごい。ほんと。1ヶ月後思い出してもうっとりできるくらいの衝撃はある。

やーすごい。

 

しかしまあ、そのときに食べたベーコンエピの美味しかったこと。

フランスパンの生地だから鳴いてたよ、この子も。ぴきぴきぴきぴきって。

焼きたてのパンって、軽いのよね。すっごい軽い。

クッキーとか焼いたらわかるよね、焼きたてのやつはサクサクでしょう。

軽いとしか言えないんだけど、おなかにたまるはずのあのパンを1コ、不思議とさくっと食べてしまって、2つ目に手が伸びてしまうくらいだったよ。

(結局遠慮しながら2つ食べたんだけど)

 

やー、ほんと、素人が想定もしていない世界の言葉、

そういうのをその道を知る人から聞けたときはほんと、ため息がでるような興奮を味わいます。

(同じ場所で『サンドイッチ教則本』っていう本を見つけたときも、うおおおってなった)

 

うめざわ

※似た感じで、ぞわぞわするので言うと、

「ユニクロのフリースはよく燃えるってたしか誰かが言ってたような」(天道なお

穂村弘『もうおうちへかえりましょう』より)

※素直にふわあああいいわあああ!って思うのは、ウールマークの広告であったという「さくさくさく、ぱちん。」だなあ。ウールを切る音!