やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

ハンドルだけじゃ走らない

ハンドルさえあれば車は走ると思ってる人、けっこういる。

得意げに運転席について、ハンドル握って、「目的地はわかってる。カーナビもあるし、迷ったら友だちに連絡して道聞くから大丈夫。いくよ!」って言いながら、アクセル踏んでるんだけど、残念ながらタイヤがない。あたりまえだけど、ぜんぜん進まない。彼は不思議がる。

「なぜだ?」「そうか、きっと頑張りが足りないんだ、車押せばいいじゃないか。楽して進めようとするからいけないんだ」

うしろにまわり、全身でふんばって押す。「よし!」ちょっと動く。運転席に戻る。気を取り直して、アクセルを踏む。がたがたするだけ。進まない。

「はて?」「そうか、1人で押すだけじゃ勢いが足りないんだ、友だち呼んでこよう!」仲間がふたりになった。ふたりで押す。ひとりのときより、ずいぶん進む。「おおこれだ!」意気揚々と車へ乗りこむ。助手席の仲間とハイタッチ。さあいくぞ。アクセル。動かない。焦る。

通りがかりの人が窓をコンコン。「あの、タイヤ、パンクしてるみたいですけど」「タイヤ?うちにはいい運転手と、いっしょに車押してくれる仲間がいるんで大丈夫です、ありがとう」依然として、同じ場所にいる。

古い友だちがやってくる。「おまえさあ、つぶれたタイヤじゃ無理だって。いい加減タイヤ買えよ」「いや、タイヤなんか関係ない。金かかるし。タイヤなしで走れる。オレの力でなんとかしてやる。なんならタイヤくらい作ってやる」

つべこべ言わず、さっさとタイヤ買えばいいのにね。

 

うめざわ

※あー、ロータスビスケットが止まらぬ。