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やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

「選ぶ」のと「好きになる」のは違うから

好きなタイプ、っていうのがよくわからない。

「どんな人がタイプですか?」っていうのはつまり、「どんな条件を備えた人がいたら、あなたは好きになりますか?」ってことだよね。好きになる条件のことだよね。かわいいとかかっこいいとか、背が高いとか低いとか、スタイルがいいとか、よく笑うとか。

でもさ、「好き」ってそういうものだっけ? よくわかんないけど気になる、が「好き」じゃなかったっけ。「こんなに条件がそろってる!だから好き!」ってそんな心の動きできたっけ?

「好きなの!その理由は……」って、好きになったものの構成要素について説明することは、まあ、できる。たくさんあるもののなかから、条件を利用してひとつを選ぶのも自然だ。

 

けどさ、逆は違うよ。「選ぶ」のと「好きになる」のはぜんぜん違うもの。選ぶのは自分の裁量で自由にできる行為けれど、「好き」は「好きになる」しかないんです、おのずからわきあがる感じ。自分じゃどうしようもない心の動きだ。そこを一緒にしちゃうと変なことになる気がするなー。


なんでこんなことを言ってるかというと、雨宮まみさんと岸政彦さんていう夢みたいな組み合わせの対談本が出てて、そりゃもうさいこうで。

雨宮:実際のデータがどうかはわからないですが、ネット上で結婚していない三十、四十代に対して発せられるメッセージって、「いつまでも夢見てんじゃねえよ」「さっさと婚活しろ」という感じのことなんですよね。結婚していない時点で「高望みをしている」「運命的な出会いを待っている」と思われて、「努力しろ」「積極的に諦めろ」「自分の望みを明確にして条件をはっきり出せ」と。そんなこと誰ができるんだよ!と思います。

(中略)

雨宮:普通に気の合う人とやっていきたいだけのことなのに、何もかも諦めて具体的な目標を掲げて、邁進してみつけないといけないことなのかと、違和感がどうしても消えないんですよね。

岸:けれど、条件闘争に邁進してる人もそこそこいるんですよね。雨宮さんは計算しようと思ったことはないですか?(中略)

雨宮:客観的に考えて「すごく条件いいなぁ」みたいな人はいたことがありましたけど、うーん、気が合わなかったですね。

岸:そこで別れられるのがすごく乙女というか原理主義的というか、純粋ですよね。

雨宮:純粋ではないですよ。損得勘定的なことはやっぱり考えたし。でも好きじゃないものには、快感がない。

雨宮まみ・岸政彦『愛と欲望の雑談』ミシマ社、p.85-86)

ここです、最後。「好きじゃないものには、快感がない」ここ読んだとき、ほんと気持ちよかったなあ。そうなんだよ!!そうなんだよ!!それを好きかどうかの判断軸は、そこに快感があるかどうかだよ。頭で考えて正しいとか得するか、とかじゃなくて。そういうとってもとっても個人的な判断が、誰からも馬鹿にされないでいられますように。

 

うめざわ

 

愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

 

※岸政彦さんのここの文章読んで、さらに雨宮まみさんをあがめてしまった。

(略)

最初の対談は大阪でおこなうことになり、阪急の梅田駅の改札で待ち合わせをした。時間ぴったりに雨宮さんが……。いや、あれは……

 最初に思ったのは、「と、東京が歩いてくるよ…」ということだった。阪急電車神戸線のホームから、改札の外にいるこちらを向かって歩いてくる雨宮さんは、大阪の田舎者には、まるで「東京そのもの」みたいに見えた。それほどゴージャスかつエレガントだったのである。