やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

そして誰もいなくなった

彼は仕事が好きだと言っている。これだけの実績があると同じ話をずっとする。

私は、てきとうに相槌をうつ。彼が好きなのは仕事じゃないだろうなーと思っているけど、それは言わない。仕事以外に相手してくれる人がもういなくて、毎日、仕事といちゃいちゃするしかないんでしょう、と言ってやりたいけれどそこまで彼にふみこむ体力はない。

だって、彼のまわりからどんどん人が離れていくの、うすうす本人もまわりも感じているもの。仕事最優先、家庭は寝床、みたいな価値観でいたら、友人関係なんて優先順位リストにも入らないくらいだ。抱えているさみしさを見ないように見ないように、そうしてたら仕事重ねるしかなかったんだなあって私にはそう見える。

大好きな(と本人が思っている)仕事をこなすために、プライベートの約束を犠牲にする。ありふれすぎてて反吐がでる話だけど、ちょっと聞いて、言いたいのは、犠牲にする優先順位はありそうだってこと。あのね、許してくれそうって思う人からないがしろにしていくんですわ。

誰でも彼でも切り落としちゃうんじゃなくて、まず家族、つぎは仲のいい友人、そのあとで付き合いの浅い人たち。そうやって順序よく手をつけていく。子どもの誕生日すっとばすのはあたりまえで、古い友人の誘いも断わりつづけ、取引先の人とえんえん飲んでたりする。その三者のなかで、誰が自分を一番大事にしてくれるのかも考えずにね。どんどん親しい人から愛想をつかされていく。

 

そして誰もいなくなった

仕事をのぞいて。

 

うめざわ