やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

話すほど消えていく怪奇現象

話を聞いていて、とても奇妙な感覚になる人と出会った。言ってることは、すごくまともで立派。顔つき、立ち居振る舞いも堂々としていて、嘘をついている感じではない。けど、その人の実体みたいなものがまったく感じられなかった。ただ言葉だけがふわふわ浮いている。

あれは自分の身体を通って出てきた言葉じゃなかった。クラウド上にある、なにか立派な(とされている)考えをそのままクラウド上からひっぱってきてしゃべってる感じ。たぶんストリーミング配信。身体からわきあがってくる言葉じゃない。頭のほうで何かを受信して、それをそのまましゃべってる。口はただのスピーカー。

何を聞いても、まとまった完璧な言葉が返ってくるんだもの。つるっつるのピッカピカ。ふつうにしゃべってたら、ほころびとか、その人の普段の顔が見える瞬間ってぜったいにあるんだけど、そういうのがきれいにないの。ニュータウンみたい。猥雑なものがぜんぜんない。整然として機能的。なのに、変。そして既視感がある。うん、聞いたことある、ああそうくる、そうだよね、うんわかる。君が次言うことなんとなくわかる。

なんなんだろうなこの感覚は。一緒に話を聞いていた友人も似たようなことを感じていたようだから、私だけに起きた現象でもない。明らかにあるな、ストリーミング配信の人の奇妙さ。話を聞けば聞くほど、あなたはだあれ?って首をかしげたくなるんだ。これ怪奇現象だよ。

基本的に人の話を聞いたら、その分だけ、この人こんなふうに生きてきたのかなあってなんとなく想像がつくものでしょう。いわゆる「自分の言葉」でしゃべる人は、話を聞くとその分だけその人のことがわかる。その言葉は、これまでの自分が溜まった沼みたいなものから醸し出されたものだから。言葉=その人になるのだけど。
なのに、どうして。話せば話すほど、その人が薄く消えていく。これはホラー。

 

うめざわ

Halloweenって綴りがいいじゃない。weenってなんかこう、白い布かぶった背の低いおばけたちの行列感があって。夜電車にのってたら、隣に座った会社帰りっぽい女の人のかばんのなかにオレンジ色のものが見えて、横目でのぞいたらたぶん柿。3つくらい。あれ顔でも描いてあったのかしら。