やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

『壇蜜日記』がとてもいい

日記は盗み見るから面白いのであって、読まれる前提で書かれた日記なんて、キメ顔ばっかりの自撮りアルバムと同じ、SNSにひそむハイエナだって食わねえよと思ってたんだけど、あった。面白い日記。『壇蜜日記』これはすごいぞ。


私が日記と呼ぶのは、「その人が①したことや②考えたことを③継続的に書いたもの」だ。有名人のTwitterとかブログは基本的に①と③だけだから、日記じゃない。「ブログ作りました!」と息巻いたエントリの直後に2、3件記事があって、その後「このブログは90日以上更新されていないのでこの広告がうんぬん」と卒塔婆が立ったままのブログは、①と②だ。(ちなみに、私が書いているこれは①が薄いので日記じゃないと思ってるんだが、どうなんだろう)

 

この定義にあわせていうと、この本に書かれているのはまちがいなく日記だ。壇蜜さんが何をして、何を考えたのか、つぶさに伝わってくる。熱帯魚と灰色の毛のない猫といっしょに住んで、「もうスチル撮影に耐えられる体でない」と言われながらも、千葉の浜辺で11月に全裸でグラビア撮影している壇蜜さん。
休みがあると言えば「仕事がないのか」とはやされ、仕事が疲れたといえば「遊んでてなにを」と馬鹿にされ、「品のないことをしている人間には文句を言う資格がない」という言葉を見て自分には何も言う資格がないのかとふてくされて、カーテン閉めて一日中寝ている壇蜜さん。

 

もちろん、グラビアアイドルのエロいお姉さんの生活のぞいてみたらめっちゃ地味だった、っていう覗き趣味の面白さはある。でもね、それ以上に、壇蜜さんがふだんの生活(自宅のまわりに新しいコンビニを見つけるも方向音痴だから次来られるかわからなくて緊張するとか、5匹しかいなかった熱帯魚がすぐに増えてるのを見て「やることねえんだな」って思うとか)のなかで、たくさんの感情を抱いて、それを違和感とか不快感も含めて、書いて見せてくれたうれしさがあるのです。ああ、この人も私と地続きのところに立ってる人間なんだって思えて安心するし、その地続きの人が見ていることや感じていることは私も共有したい。

 

この「地続きの人」にぐいっと惹きつけられる感じ、わかった、「この世界の片隅に」と同じだ。あの映画見てどうだったと問われても、「……すずさん(主人公)に会ってきた感じ」としか私は言えなかったんだけど、その感じなんです。この本読むと、壇蜜さんに会えるんだ。ネットに落ちてる写真の壇蜜さんじゃなくて、その写真撮ったあと「あんなんでよかったのかなあ」って悩んでる壇蜜さんに会える。はだけた着物姿じゃなくて、キティちゃんのトレーナー着て大相撲見てる壇蜜さん。こっちもたいへん魅惑的だった。 

壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)

壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)

 

 うめざわ

※体調が崩れる。がらがらがら。