やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

生半可にすんな

予備校時代のね、英語の先生に言われてたことが今でも残っている。ピンクのチョークの粉にまみれたテキストを二つ折りにして、いつもおなじブルージーンズ履いて、デニムシャツをインして、これ以上速くこの引き戸をあける人はいないわと誰もが認めるスピードで灰色のドアを引いて、轟音ののちに入室、右目をしぱしぱさせて「……おたくらさあ」から毎度の授業始めるS先生。(二人称が「おたくら」の人、私はあの先生しか知らない)

「おたくらさあ、大学とか入ってもな、ぜっっっったいに英語教えるなよ」って。
理屈としてはたぶんこう。「オレの教え方で英語がわかった気になるだろう。けれど、それはオレの膨大な知識量からしぼりだしたエッセンスでしかない。オレはタイトルに「英語」って入ってる本は全部買って読んでるんだ。そのオレのエッセンスだけを飲んで、これがすべてだと思うな。ぜんぶわかったふりして、後輩に教えるな。生半可な知識をまきちらすな」

当時はひどいこと言うなあと思ってたけど、正しかったなあ。今になって思う。誰かに働きかけたりするなら、真剣にしないといけないわ。ちょっとやってみたいからーっていうふんわりとした理由で、他人の人生に関わるのは失礼なことだなあと思った。生兵法は大怪我のもと。自分にも、他人にも。

 

うめざわ

※当時は予備校の先生の評判とか、インターネット掲示板ミルクカフェで見てましたねえ……ミルクカフェ……