やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

身体感覚系ことばの危うさ

ううう、cakes連載「京大院生が選んだ『人生を狂わす』名著50」の名前が変わってしまった……。「わたしの咀嚼した本、味見して。」になってしまったなんて。トリッキーな言葉づかいでインパクトはあるけど、生理的嫌悪感を与えちゃだめじゃないかーー。くちゃくちゃぺっしたものを味見したくなる人なんかいないのに。しかも「わたしが」ってくちゃくちゃした人まで明らかにして、さらにそれを「はいどうぞ」っこちらに差し出すなんて、やりすぎもやりすぎだよ。うう、かなしい、いい連載なのに。

身体感覚を意識させる系タイトルとして、『君の膵臓をたべたい』があると思うのね。でもこちらはいいんだよ。ほとんどの人は「膵臓」がどんなものか想像もできないから、グロさがないわけ。生理的嫌悪感なしに、「内蔵を食べる」っていうインパクトだけ与えるのだ。だからこれは相当うまいネーミングだと思うわけ。

『君の肝臓をたべたい』だと、お、人間のレバーっておいしいの?ってなるし、『君の胃をたべたい』だと、なに食いしん坊なの?ってなるし、『君の心臓をたべたい』ってなると、え、食い殺すの?ってなるし、『君の腸をたべたい』っていうと、えっとスカトロですかってなるし、『君の指をたべたい』だと、やっぱ小指がたべやすいかなって妙にリアルになっちゃうし、『君の目をたべたい』ならスプラッターホラー。やっぱり膵臓しかない。

 

うめざわ
※でもでもいい連載です。

三宅香帆『人生を狂わす名著50