やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

人が死ぬ瞬間を見た

人が死ぬ瞬間を見た。

正確に言えば、
ホームに突進してくる電車のアタマと、
線路にジャンプして着地するまえの
若い女性の背中を同時に見た。

電車がホームへ入った瞬間に
地面を蹴って宙に浮いたんだろうね。

キーーーーっとすさまじい轟音。
ブレーキの音だろう。
けど、電車のアタマはそのままホームの途中まで。


そこから先は知らない。
即座に駆け上がって駅の外へ出てしまった。
その後、救急車や消防車がやってきて、
何人かの男たちが駅へ入っていって、
担架らしきものを運んでいるのを見ただけ。
目隠しのようなものかけてね。

命は大切だ、自殺をするなんてもってのほかだ、
なんてことは言わない。
けれど、電車で死ぬってことは、
崖へ飛び込むのとはわけが違う。
運転手に自分を殺させるんだ。

あのときのブレーキ音は、
ホームから足が浮いた彼女を見つけて、
運転手が慌ててブレーキを引いたから。
たぶん彼は、彼女の最後の姿も見て、
回避しようとしたけれど、
それでも彼女を轢いた。

ただ、つらい。
飛び込んだ彼女も、運転していた彼も。


うめざわ
※ひとりで死んだつもりでも、そのあといろんな人があなたを助けに来たんだよ、って
彼女に言いたい。だから感謝しろ、だから死ぬなではなくて、よかったねって。