やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

皮だけアイドル

ひとは、どうせ見た目しか気にしてないんだよ…

内面が大事とかって言うけど、そんなん嘘だ…

 

固定したままの、人間味の欠片もない笑顔だって、

きゃーかわいーって、ひとは言うんだ…

 

ぽよぽよふくふくした見た目だからって、

なかまで無邪気なものだと思うなよ…

 

なかでは、仏頂面だぜ?

うっとおしいなあこいつら、

ほらほら手でも振っとけば喜ぶんだろはいはいって、

そう思って、ずっと手振ってるんだぜ?

 

ほんとの自分は、むすっとしたままなのに、

機械的に手を振るだけで、まわりにひとが群がる。

なんなんだよお前ら!

 

まわりの人間が何を考えて、

何を求めて自分のところへ来るのか、

わからなくなる。

 

ねぎらってくれるのは、政治家だけだ。

彼らは、手を差し出して、ご苦労さまですって。

それだけ。

親しい友人だって、内側にいるほんとうの私なんて、

だれもわかってくれない。

私だよ!って叫んだって、その声は聞こえない。

キャッキャしながら、写真撮るだけ。

ほんとうの私なんかどうでもいいんだ。

 

アイドルの仮面を脱ぐときに、

どれだけ疲れた表情をしているか、

ファンたちは知らない。

 

控え室に入った途端、

上半身を覆っている重たいものを脱ぎ捨てる。

するとなかから、暑いだるい疲れたまじうっとおしい、と

悪態をつくだけの、ただのねえちゃんが現れる。

 

前見えないんやけど!

ちゃんと私を誘導しいや!

視界が狭すぎて、足元見えないんやから!

ちっさい子抱いた親が近づいて来て、

写真せがむのはいいんやけど、

子ども見えんから!

握手するのとか、リアルに手探りやから!

 

ていうか、なか暑すぎる!

ああ、まだ下半身履いてたわ、くっそ脱ぎ捨てるわこんなもん。

こんなん着て動きまわるなんて拷問やわほんま。

夏死ぬで。ほんまにもう、もっと動きやすのに変えてや。

 

せやせや、あんなぁ、

新しく頭のてっぺんにつけたちっさい扇風機、

それに髪の毛絡まってむっちゃ痛いんやけどどうしてくれんの!

物理的にもハゲにするつもりかいなまじで

ったくもう…ありえへん…

 

そんな嘆きは控え室に放たれたまま、

上辺だけのアイドルは、

全身ばらばらにされ、車に積み込まれ、クリーニングにまわされた。

 

中身なんてどうでもよい。

ものも喋らず、ただ動く。

それだけで、今日もどこかで歓声を浴びている、皮だけのアイドル。

 

うめざわ

※暑いとか動きにくいとかも想像以上だけど、精神的なストレスがやばいっすあれ