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やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

イヤだからイヤ

いやなことを、ただ「いや」っていうのは難しい。

たとえば、いつも遅刻するとか、約束破るとか、愛想悪いとか、そういう人が目の前にいて自分が不愉快になったとしても、「いやだから、やめて」ってなかなか言いにくいんだ。

「約束を守るのは、常識だから」
「みんな嫌がってるから」
「私はいいんだけど、このままだと社会に出たときに困ると思うんだ」

とかね、「常識」とか「周りの意見」を盾にしてしまう。
あくまで「そのままにしていると周りにもあなたにも不利益だから、あなたのためを思って小言言うのよ」そんな感じになっちゃうのよ。

 

その言い方がとってもずるいのは、ほんとうは「私がいやだ」って言いたいのに、そこを隠すから。

「常識的にちょっとねえ……」って言えば、「私は常識ある人間です」っていう立場を守れるし、「自分はそんなことで不愉快になるような器の小さな人間ではないのだけど」っていう言い訳もできるし、「常識守らないとこの人が可哀想だから、この人のために言ってあげてるの」っていう憐憫の情がある人のようなふりもできるし、なにより「常識」っていう大きくて正しそうなものを盾にすれば、「いやだなあ」って感じてしまった生身の私を差し出さないで済む。とってもよくできた言い方よ。

 

けどさ、ちがうじゃない。あんたが、いやなんでしょう?

あんたは、それだけのことで腹を立ててしまうような人間なんですよ。それを自分で認めないと。レジで割り込まれたとか、店員が横柄な口きいたとか、LINEが既読スルーされるとか、たったそれだけのことで不愉快になってしまうような小さい人間なんですよ。残念ながらね。それを認めないで「常識」を盾に文句言っても、ただかっこわるいだけなんだって。「いやだから、いやです」っていうほうが、よっぽど誠実なんだ。

 

うめざわ

※タイトル元ネタはこちら

内田百間―イヤダカラ、イヤダの流儀 (別冊太陽)