やどかり

昼のお星は目に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。(金子みすゞ)

ぬるぬるの文学フリマ

先日、文学フリマなるものに出かけた。あのねえ、異様にぬるぬるした空気だったの。

会場に入って、う。ちと退散。廊下に戻る。息を整える。まずいぞ。

きっと私は、コンビニ的買い物に慣れすぎたんだと思った。ただ商品をつかんでそれをレジに持っていって、店員さんが機械的に処理する。店員さんのこと、人間だと思ってない人多いでしょう。レジ打ちマシーンだから、無言で商品を置いて、金出して、去る。レジ打ちマシーンが何をしゃべっても、こちらは声すら出さない。そういうツルツルで清潔で最小限のやりとりが楽だから、顔見知りのおばちゃんのいる肉屋とかには行かなくなるんだけど。

などど考えつつ、んっ、息をとめて会場に入る。文学フリマは、まさにフリーマーケットでしたね。公園でビニールシート広げて、よくわからない小物たちを売ってる人たちがわんさかいる場所。そういうところは、におうんです。くさい、ではないよ。コンビニにはにおいがないけど、昭和のまま棚が変わってないんじゃないかっていう個人商店にはなにかにおいがするのと同じ。広げられた物を見るとさ、その人たちの歴史が見えるじゃないですか。ああ子どもいるんだな、とか、人形作るの好きなんだなとか。そういう個人の歴史が空気中に発散されていて、それを私は「におい」として感じる。

で、文学フリマは、それのもっと強烈なやつだった。飽和状態だったと思うよ、あの会場の空気。空気中の「個人の思い」濃度MAX。においがとけだして、もはやぬるぬる。
自分の作品を、書いた人が売る。これは強烈なことだわ。買い手は、作り手が両脇にずらりっと並んだ長机のあいだを歩く。視線がこわい。おちおち商品を見てられない。たまに気になる冊子がある。立ち止まる。その瞬間、コミュニケーション能力を最大値で出力して、「すごい!見てもいいですか?」と笑顔をつくり、見本を手に取る。たぶん、小1時間で6,7件立ち止まって、それぞれ数十秒話をし、初見のものを1つ買った。
立ち読みしたはいいけど、まったく興味もないものだったときが厄介だった。いいですね、とも言えないし、かといって力入れて作ったであろう冊子を即閉じるのも失礼かと思いしばし読むふり。うーむ。もちろん黙って手にとり、黙って去る人もたくさんいたけど、自分でそれをする勇気がなく。結果、ぬるぬるの空気に耐えかねて早々に離脱。初めての文フリ体験でありました。

 

うめざわ
※でも、大学のときの先輩方に4,5年ぶりに再会するなど、世間の狭さを実感した次第。け、毛鍋……http://sankaku-kankei.tumblr.com/

※ということで、小冊子「sukima 2号」に寄稿しました。執筆者は前回からずいぶんと増え、なかなかみんなこなれてきた感じがあります。お値段600円。お求めの方は念を飛ばしてください。