知らない人はただの景色
箕面の滝に行った。途中のベンチで座ってた。ひとり。
「じいっとしときや」が聞こえる。うしろから。おじいさんだ。
もう一回「じいっとしときや」が近づく。あ、これ私に言ってんのか。
はあ。固まる。
左肩をぱしぱし叩かれる。え。
「けむし。けむし」
ようやく振り返る。
「ああ、すんませんありがとうございます助かりました」
おじいさんの後ろ姿。
いやあさあ、このあとさあ、自分でびっくりしたんだけど、
涙出てきたんだ。びっくりした。
ふつうさ、知らない人は、人じゃないんだよ。
ただの景色。
繁華街行っても、近所歩いても、どこに行っても、私は景色でさ。
特にいま、仕事がないので、私はずっと景色なわけだわ。
たまに友だちと会って、やっと人に戻る。
なんだけど、今日の箕面ではあの見知らぬあのおじさんが、
突然私を人にしてくれたのよね。
あのおじさんは、毛虫ついてるわ取ったらな、って思ってくれたんだ。
自分が毛虫ついてたら嫌なようにあの人も嫌がるはずだ、って即座に思ってくれた。
人でいられた。うれしかった。
うめざわ